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春と私と左門くんはサモナー

 2016年、春。温かな日差しに、風に吹かれさわさわと揺れる梢。久しぶりの心休まる休日に、日溜まりのリビングで思った。


「働きたくねぇ~……」


 毎日励んだ部活も引退となり、今は社会人を目指しインターンシップや講習会に参加する日々。

 そこで出会った他大学の人達とFacebookを交換しては、アフリカの子どもたちと笑顔で肩を組む美女におののき、対抗せんとばかりに旅行先で食べたたこ焼きの写真を載せたりもした。

 しかし人事が採りたいのは、青のりを前歯につけてヘラヘラ笑っている女より、グローバルに活躍する美女である。私は「たこ焼き=丸い=地球」説を提唱している者の一人であり、「たこやきだってグローバルじゃね?」と思っているのだが、それはここでは置いておこう。


 とにかく、本格化する就職活動に向けて、孤独に戦う日々。周りを見れば優秀な人ばかり。自分の未来が見えず、不安で息がつまるようだった。

 ある日、そんな私の肩をたたいて、兄は言った。


「最近さぁ~、左門くんさぁ~、おもろくね??」


 振り返ると、風呂で読んだのだろう、しわくちゃのジャンプを抱えながら、ヘラヘラと笑っていた。なんだこいつ、と私は思った。



 「左門くん」とは、週刊少年ジャンプに載っている、「左門くんはサモナー」というコメディ漫画である。
 ストーリーを簡単にいうと、善人嫌いのサモナー(召喚士)の左門くんが、てっしーという善人の少女にみみっちい嫌がらせをしていく話だ。

 2015年の秋から連載していたが、最初の1、2話は主人公の左門くんが嫌なやつで好きでなく、私はすでに読んでいなかった。てっしーは可愛かった。

「黙って火ノ丸相撲読んでろよ。てっしーは可愛いけどさ……」

「いやいや、マジ面白いって。読んでみ」

 私の家は、私が小学2年生くらいのとき、父がワンピースのためにジャンプを買い始め、それを今になるまでずっと母と弟を含めた家族5人で回し読みしている。

 ジャンプを読み始めて、かれこれ十数年が経つ。

 いくつもの名作と、いくつもの糞漫画(すみません)に出会ってきた。後者は瞬く間に打ち切られ流れ星のように消えていき、前者も目映い光を放っていたと思ったらあっという間に流れ星のように消えていった。


 本当に自慢することではないが、幼い頃からジャンプを読んで影響を受けてきた私は、いわゆるメジャーどころが大好きである。

 例えば好きな漫画を挙げていくと、ワンピース、ドラゴンボールハンターハンター、鋼の錬金術士、うしおととら20世紀少年ヒカルの碁スラムダンクなどになる。「マジ私オタクだからさぁ~、マニアックな漫画が好きなの///」とか言おうものなら往復ビンタからのアッパーを喰らわされそうなラインナップである。

 そんな私は「左門くん」を最初の1、2話で読むのをやめていた。
 しかし、「マジ面白いんすよ~」とヘラヘラ笑う兄の姿が忘れられず、しわくちゃになったジャンプをなんとなく手に取ってみた。


ペラ。


……。


ペラ、ペラ。


……。


ペラ、ペラ、ペラ。



…………………あれっ、……面白い。




 そんなわけで、私は「左門くん」と出会い、(兄の思惑通り)まんまとハマってしまった。



 カス虫な左門くんと突っ込みキレキレなてっしーのハイテンションドタバタコメディは、不安で息がつまりそうだった私に、心休まる時間を与えてくれた。


 ネビロスさんとの時折挟まれるラブコメにキュンとしたり、下呂くんのテンションの高さに笑ったり、左門くんとてっしーの奇妙な関係にグッときたり。


 いまや私は、コミックスを発売当日に買いに走り、こっそりアンケートハガキを送る、完璧なファンとなっている。
 アンケートハガキを送るなんて、これまでの人生の中で、小学生のときにどうしてもDSが欲しくて送った1回だけだったのに(ドキドキしながら待っていたが結局DSは来なかった)、この歳になって送ることになるとは全く思っていなかった。人生とは何が起こるかわからないものだ。



 それからしばらくの時が経った。私は「左門くん」のおかげでつらい就活も乗り越えることができ、無事内定をいただくことができた。そして、春から社会人となる。(兄に「お前も晴れて社畜の仲間入りだな!うける~」と言われ戦々恐々としているが。)


 これも、「左門くん」があったからこそだ。つらい日々を支えてくれたコミックスは、私の宝物だ。
 

 少し長くなったが、そんな「左門くん」への最大級の感謝の思いと、これからも左門くんとてっしーの二人のドタバタコメディを見ていたいという気持ちと、たこ焼きはやっぱり地球なのではないかという説を提唱した上で、この記事の締めとする。